令和4年1月7日、14日に実施した多文化共講座(主催:ふっさ・はむら多文化共生事業協議会)の講師の栁田直美さん(一橋大学国際教育交流センター准教授)にコラムを執筆いただきました。
「やさしい日本語」などについて、わかりやすく紹介していただいています。ぜひ、ご覧ください。
栁田直美さん(一橋大学国際教育交流センター准教授)
一橋大学森有礼高等教育国際流動化機構国際教育交流センター准教授。
筑波大学地域研究研究科修士課程修了。博士(言語学)。大学院を修了後、中国の吉林大学で日本語教師になる。関西学院大学日本語教育センター、一橋大学国際教育センター准教授を経て現職。
専門分野は談話分析。著書に「接触場面における母語話者のコミュニケーション方略―情報やりとり方略の学習に着目して」(ココ出版)、「<やさしい日本語>と多文化共生」(共編著、ココ出版)、「超基礎 日本語教育」(共著、くろしお出版)、「「やさしい日本語」で伝わる!公務員のための外国人対応」(共著、学陽書房)などがある。
「やさしい日本語」についてご存じですか。「やさしい日本語」というのは、一般的に使われている日本語を外国人にもわかりやすいように簡単に話したり、書いたりする日本語のことです。
「やさしい日本語」の始まりは1995年1月の阪神・淡路大震災の後です。当時、日本人だけでなく外国人も大きな被害を受けましたが、その中には、日本語も英語も十分に理解できず、必要な情報を得られなかった外国人も多くいました。それを教訓に、外国人をはじめとした情報弱者の方たちが災害発生時に命を守る行動をとることができるよう考え出されたのが「やさしい日本語」です。今では、災害時だけでなく、行政からの情報発信、ニュース、観光、医療などにも活用され、全国各地でさまざまな取り組みが行われています。
現在、日本には約160か国・地域から来た、約300万人の外国人が暮らしています。みなさんの身近でも外国人を見かけることが多くなったのではないでしょうか。平成28年度の法務省の調査によると、「日本人と同程度に会話できる」、「仕事や学業に差し支えない程度に会話できる」、「日常生活に困らない程度に会話できる」と答えた人は合わせて80%を超えています。日本に住む外国人は、英語よりも日本語でコミュニケーションができる方たちなのです。
身近な外国人と日本語でコミュニケーションを取る方法を知っておくことは、今後ますます、重要になってくるでしょう。令和4年1月7日、14日の「やさしい日本語講座」では、みなさんと楽しく「やさしい日本語」について学んでいきたいと思います。
Vol.1では「やさしい日本語」の背景や現状をご紹介しました。今回は具体的な書き方、話し方をご紹介します。さっそくですが、AとB、どちらの文の方がわかりやすいでしょうか。
A「大雨が降った場合などは河川の水位が下がりにくくなりますので、ご注意ください。」
B「大雨(おおあめ)が降(ふ)ったら、川(かわ)の水(みず)が増(ふ)えます。川(かわ)の近(ちか)くに行(い)かないでください。」
Aは私たちがふだんよく目にする文ですが、あまりわかりやすいとは言えません。それに対してBは、簡単な語を使い、言いたいことをはっきりと伝えています。やさしい日本語で書くときの基本的なルールとして、「簡単なことばを使う」、「あいまいな表現を避ける」、「敬語を使わない」、「1文を短くする」、「必要な情報だけを示す」、「結論を先に示す」などが提案されています。やさしい日本語で話すときは、それらに加えて、「『です・ます』ではっきり文を終わる」、「相手が自分の話を理解しているかどうかよく確認する」などがポイントとして挙げられています。また、会話に積極的に参加することや、相手の理解度に合わせて話そうとする態度もとても重要です。
ご紹介した方法は、日本人同士のコミュニケーションでも大事なことですし、案外、簡単なことではないでしょうか。日本に住む外国人の約8割は日本語でコミュニケーションをとることができます。コミュニケーションを大切にする態度と少しのテクニックで、外国人との会話をぜひ楽しんでみてください。
私たちは日々の生活の中で、「誰と」、「何を」、「いつ」、「どこで」話すかによって、無意識のうちに話し方のチャンネルを切り替えています。例えば、次の3つの場面であなたはどのように話しますか。
内容が同じであっても、相手が変わると話し方は変わるはずです。初対面の人に対しては改まって、親友にはざっくばらんに、外国人にはゆっくりはっきり話すかもしれません。私たちはふだん、「丁寧さ」や「わかりやすさ」などを天秤にかけて、どのように話せばコミュニケーションがうまくいくかを瞬時に判断してチャンネルを切り替えているのです。
数多くのチャンネルのなかで、「やさしい日本語」は日本社会にとってはまだ新しいチャンネルといえるでしょう。「令和元年度国語に関する世論調査」によると、日本人の中で「やさしい日本語」を知っていると答えた人は30%ほどだったそうです。新しいもの、慣れないものに接したときは、抵抗感も生まれやすいものです。実際に「やさしい日本語」に対して「直接的で抵抗がある」、「外国人を子ども扱いしているのではないか」などの批判もあります。
ですが、「わかりやすさ」を優先させると、「丁寧さ」が低くなってしまうことは多くあります。みなさんが街のポスターや説明書き、役所の窓口やスーパーなどで「やさしい日本語」に接したとき、「こういう書き方・話し方もあるんだな」、「この書き手・話し手は今は丁寧さよりわかりやすさを優先させているんだな」と受け止めていただけたら、「やさしい日本語」がふつうのチャンネルになる日が一歩、近づくでしょう。
3回にわたって、「やさしい日本語」の背景や現状(vol.1)、「やさしい日本語」を使った書き方・話し方のポイント(vol.2)、コミュニケーションのチャンネルの一つとしての「やさしい日本語」(vol.3)について紹介してきました。これまでは、「やさしい日本語」とは、一般的に使われている日本語を外国人にもわかりやすいように簡単に話したり、書いたりする日本語としていました。ですが、「やさしい日本語」は、本当に外国人だけのものなのでしょうか。
小さなお子さんや高齢者、障害のある方など、情報を手に入れたり利用したりすることが難しいのは外国人だけではありません。コロナ禍のなか、私たちは不確かな情報に大きく振り回されてきました。正しい情報を簡単に手に入れられることは、すべての人にとって大事なはずです。ここで、私が行った自治体職員向けのやさしい日本語研修で受講者の方からいただいたコメントをいくつかご紹介します。
外国人の方にとってわかりやすい日本語は、誰にとってもわかりやすい日本語です。さまざまな立場や属性の人たちが協力して社会を作るためにもっとも重要なのはコミュニケーションであり、多文化共生社会の構築において「やさしい日本語」が果たす役割は大きいのではないでしょうか。
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