8 会議の内容 | 1 開会
(事務局) ただ今から第1回羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会を開会いたします。開会に先立ちまして、並木市長よりご挨拶申し上げます。
2 市長あいさつ(要旨)
(市長) 本日、第1回の羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会を開催いたしましたところ、ご多忙中にもかかわらず多数の委員の皆さんにご出席いただき、誠にありがとうございます。 市、関係機関とも交通安全・防犯対策等に努力しているところですが、ここできちんとした条例を定め、羽村市がさらに安全で安心して暮らせるまちになるために、市民、官公署、関係団体が連携して取り組んでいきたいと考えています。今回の懇談会は、条例の制定に向けて、多方面からのご意見をいただくために設置いたしました。 本日ご出席いただいた皆さまは、本懇談会の委員というだけではなく、日ごろよりさまざまな方面で市政にご協力をいただいている方々であり、改めてお礼申し上げます。 統計的には火災や犯罪の数は減少傾向にあり、関係機関の取組みが成果を上げてきているのではないかという印象がありますが、実数としてとらえますと、平成17年では年間の火災が20件台、人身事故が300件台、犯罪が1,000件台と、まだまだ安心といえる数字ではありません。これからも力を入れていかなければならない問題であると考えています。 市としての交通安全、防犯対策、火災予防への取組みを進めていくうえで、この懇談会に大きな期待を寄せております。ご忌憚の無いご意見をいただくとともに、検討を進めていただき、良い報告をいただきたいと思っておりますのでよろしくお願いいたします。 また、この懇談会が、条例あるいは市政について検討するだけではなく、委員相互の連携を深めるための会となりますことを願っております。
3 各委員紹介
(事務局) 委員氏名および事務局職員を紹介。
4 座長・副座長の選出
(事務局) 羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会要綱に基づき、座長・副座長の選出について説明。 座長の選出について意見を伺ったところ、委員から事務局案があれば提示してほしいとの意見があった。 事務局からは、座長に学識経験者である小出委員、副座長に町内会関係者である中野委員を提案し、各委員に承認された。
(小出座長) 小出と申します。懇談会の座長を務めさせていただきます。今後の検討内容が条例に反映されることを期待しておりますので、よろしくお願いいたします。
(中野副座長) 副座長という大役をおおせつかりました、町内会連合会の中野です。すばらしい先生をお迎えし、私どもは何分にも素人ですので、皆さまのご指導ご鞭撻をいただき、すばらしい会ができますようお願いいたします。
(事務局) それでは議事の進行について座長にお願いします。
5 議題
(小出座長) 本日の次第をご覧いただくとわかるとおり、たくさんの議題があります。報告事項が多いのですが、第1回目の懇談会ですので、報告事項以外にもご自由に意見を言っていただければと思います。
(1)羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会の傍聴に関する定めについて
(小出座長) 事務局から説明をお願いします。
(事務局) 羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会傍聴に関する定め(案)に基づき説明。
(小出座長) この件に関しご意見ありますか。
(各委員) 意見等なし。
(小出座長) それでは傍聴者の方はいますか。
(事務局) 今の段階で傍聴希望者が1名おりますので、入場いたします。よろしくお願いいたします。
傍聴者入場
(小出座長) 次の議題に移ります。議題の(2)から(5)までは報告事項なので、一括して説明をいただき、後で質問を受けることとしたいが、よろしいでしょうか。
(各委員) 了承。
(2)羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会の概要について
(事務局) 羽村市交通安全・防犯対策等に関する懇談会要綱に基づき説明。 今後、皆さんからご意見をいただきながら生活安全条例(仮称)を作っていくわけですが、担当課といたしましては、この懇談会を契機として、防犯、交通安全、消防等について、各団体相互の連携を深めていただき、快適な生活環境の整備を一体的に進めていくとともに、こうした連携の仕組みづくりについてもいろいろなご意見をいただき、連携を強化していきたいと考えています。 是非、ご忌憚のないご意見をいただき、羽村市の交通安全・防犯対策等が向上していくようにご協力をお願いいたします。
(3) 市内における交通事故発生状況等について
(事務局) 統計はむら抜粋資料に基づき説明。 表中左上の「人身事」とあるのは「人身事故」の誤りなので、訂正をお願いします。 昭和60年の人身事故の件数が121件であったものが、平成2年には244件と倍増しています。その後平成7年までは200件代で推移していましたが、平成8年には300件を超え、平成11年には400件を超えています。平成13年の497件をピークとして以後減少傾向に転じ、平成17年は385件という結果となっています。 交通安全に関しては、福生警察署並びに羽村市交通安全推進委員会がさまざまな啓発活動を行っています。特に福生警察署管内で交通死亡事故が発生した場合には、特別立哨や特別広報を行っているほか、日ごろから交通安全運動等を中心とした立哨、指導、広報などの活動に取り組んでいます。平成17年には、警視庁においても、チャレンジアンダー300と銘打って、管内の死亡事故死者数を300人以内に抑えるためのさまざまな取り組みが行われたところです。こうした取り組みを背景に、羽村市内においても、平成17年の人身事故件数が前年に比べ50件ほど減少しています。
(4) 市内における犯罪発生状況等について
(事務局) 統計はむら抜粋資料に基づき説明。 表中「侵入盗犯」の中の「侵入その他」について、一部数字の記載がない部分がありますので、数字の記載を行い、訂正をお願いします。 平成元年28件、平成2年35件、平成5年17件、平成6年35件、平成7年39件、平成8年32件、平成9年42件となっています。 犯罪発生件数の推移としては、平成8年までの間は概ね500件前後で推移してきましたが、平成9年には876件と、かなり増加しました。平成11年には1,000件を超え、平成7年から5年間の間に約倍に増加したこととなります。その後、平成14年には1,388件とさらに急増しました。内容をみると、空き巣、忍び込み、自転車盗、車上ねらい等の増加が目立っています。 こうした状況を受け、警視庁では、平成14年を治安回復元年と位置付け、以後の3年間で犯罪件数を10年前の水準に戻すことを目標に、犯罪抑止に取り組んできました。 市内においても、福生警察署と福生警察署管内防犯協会を中心として、夏まつりや産業祭等のイベントを通じて防犯に関するキャンペーンを行い、また、地域安全運動の折には、駅周辺等において、防犯チラシを配布するといった活動を行ってきました。その後、犯罪の発生件数は徐々に減少してきています。
(事務局) 羽村市の防犯対策に関する取り組みについてに基づき説明。 本表については、市民生活安全課に関係して実施してきた取組みを記載しています。実際にはこの他にも、地域独自で行っている取り組み等数多くの事例があると思いますが、こうした事例については記載してありませんのでご了承ください。
(5) 市内における火災発生状況等について
(事務局) 「統計はむら抜粋資料」に基づき説明。 火災については、福生消防署並びに羽村市消防団により防火を中心とした啓発活動等に取り組んでいます。出火の件数を見ると、平成4年以降、多い年で44件、その他の年は概ね20件から30件の間で推移しています。内訳を見ると、全焼となるような火災はほとんどありません。福生消防署管内の他自治体と焼失面積を比較すると、羽村市は少ない数値となっています。これも地元の消防団を中心とした啓発活動等による成果の現れではないかと思われます。
(小出座長) 福生警察署から参加いただいている、白石委員、栗原委員から何か補足することはありますか。
(白石委員) 犯罪の発生件数について補足します。 平成15年からの3年間の取り組みでは、皆さまのご協力により、警視庁管内では当初の目標を達成することができました。 また、今年度についても、さらに取り組みを進めているところです。 指定重点犯罪については、昨年までのものに加え、今年は振り込め詐欺、車上狙いを新たに指定しました。 福生署管内での犯罪発生の傾向としては、侵入盗犯が多くなっています。最近では、忍び込みの手口としてサムターン回しが増加しており、特に5階建てのマンション等で夜中から朝にかけて複数の部屋に忍び込むケースが多くなっています。
(栗原委員) 交通事故の発生件数について補足します。 羽村市内の人身事故は、昨日現在で262件となっています。昨年死亡事故が2件ありましたが、今年も6月に1件発生しています。 警視庁管内では、交通事故で亡くなる方の3割が高齢者となっています。羽村市内においても、6月の事故で亡くなった方は73歳の男性であり、昨年発生した死亡事故2件についても、69歳の男性と85歳の女性で、この2年間で亡くなっている方がいずれも高齢者となっており、高齢者の事故対策を重点に行っているところです。 今日も羽村市交通安全推進委員の協力を得て、羽村駅前において、反射材着用のキャンペーンを行っています。 交通事故に遭わない安全・安心なまちをつくるために、ご協力をお願いいたします。
(小出座長) これまでの説明内容について、ご意見ありますか。
各委員からの意見等特になし
(小出座長) 第1回目の懇談会ということで、その他に質問や懇談会に期待すること、あるいは今後条例を作っていくわけですが、その過程で審議してほしいこと等がありましたら、ご意見をいただきたいと思います。 また、今すぐではなくても構わないので、ご意見があれば事前に事務局に申し出ていただければ、資料の準備等を行っていきたいと思います。
(北浦委員) 私は青少年育成委員会で子供たちを対象にした活動を行っています。会員は現在38名で、毎週パトロールを行っています。 この懇談会へのお願いとして、こうした懇談会の場で、子どもの意見を聴き、それを反映する機会を作ってほしいと思います。さまざまな事件の被害者を見ても老人や子どもが多いので、懇談会要綱第6条にあるように、委員以外の人、特に年齢を制限せずに子ども等の意見を聴く機会を設けていただけないかと思います。福生市では防犯マップを作成する過程で子供たちの意見を聴く機会を設けており、羽村市の小学校においてもマップ作成を行っていますが、こうした事例にあるように、子供たちからの意見を直接聴く機会を設けてほしいと思います。
(小出座長) どのような形で意見を聴くか等、また相談したいと思いますが、事務局でもこうした要望があったことを記録しておいてください。 その他いかがでしょうか。
(村野委員) 小鳩幼稚園から線路を挟んだ反対側に農協の小作支店があり、以前ここに強盗が入ったことがありました。その時、近隣の幼稚園等には、近くで強盗事件が発生したという連絡が全くありませんでした。新聞社からの問合せで、はじめて事件の発生を知りました。市役所からも連絡がありましたが、だいぶ時間が経ってからのことでした。 こうした事件があった場合に、市民になるべく早く情報を伝えるシステムを作ることが必要であると感じています。 羽村市内においても、子供たちを対象とした痴漢等の事件もあり、市の教育委員会からFAXで連絡が入ることがありますが、外で遊んでいる子供たち等には連絡がとれないので、そうした人たちにも情報を伝えるシステムを考えていただきたい。保護者も安心できると思います。
(小出座長) 条例の中で、情報共有や情報伝達の仕組みを確保するといった項目を設定したうえで、具体的な情報伝達のシステムを作っていくという2段階のステップが必要です。条例に基づいた施策として情報共有・伝達のシステムを作り上げていくという方向で検討していけば良いと思います。
(白石委員) 情報伝達の関係ですが、警視庁全体で電子メールによる犯罪情報の配信を行っています。例えば福生署であれば、福生署の管内の犯罪発生等の情報が携帯電話やパソコンに送信できます。これには登録が必要となりますが、現在福生警察署管内で560件位の登録があり、今年になってからも40から50件位の情報を発信しています。先程強盗事件の話がありましたが、中には捜査上なかなか流せない情報もあります。しかし、それは別として、地域で発生した事件等について、直接個人に情報を提供できるので参考にしていただければと思います。ご希望の方は、福生署の防犯係へご連絡ください。 また、昨年の12月22日から警視庁のホームページで、各区市毎の不審者情報を掲載しています。
(島田聡委員) 消防団では、防災を中心に活動しています。火災の原因として放火の問題がありますが、焼失面積を見ても羽村市が比較的少なく済んでいるのは、燃えにくい建物が増えたということのほか、防火のための啓発活動が功を奏している部分も大きいと思います。こうした防火活動に関しては、防犯との密接な結びつきがあると認識しています。以前、防犯に関する取り組みについて、消防団への協力依頼があり、どのようなことを行ったら良いかということを話し合ったことがありました。 線引きをすることが良いとは考えていませんが、防犯に関して消防団がどのように関わっていけばよいか等、消防団の役割について示していただければ、今後の活動の参考にできると思います。
(小出座長) 東京消防庁では、以前、放火に関する取り組みについて報告書を出しています。放火は火災の大きな原因の一つで、予防するためには地域の中での横の連携が大変重要です。誰がどのような役割を担うかを仕分けるのは難しいですが、お互いに協力して取り組んでいくということにはなるはずです。 それから、本日はお二人の方が公募委員として参加いただいていますが、何かご意見ありますか。
(田村委員) 最近の問題として、市民のマナーが乱れてきていると感じています。特に駅周辺では、人が通れないくらい道路に物が置かれていたり、捨てられていたりしていて、目に余るものがあります。お子さんは学校での教育が行き届いているのである程度ルールを守っているという認識がありますが、大人が意外にマナーを守っていないと感じています。そういったところをお話しし、また議論していただければと思い応募させていただきました。
(山田委員) 今後具体的な検討をしていく中で、意見を述べていきたいと思います。
(小出座長) 最近は公募の委員の方が非常にたくさんいらっしゃって、半数以上が公募委員という所もあります。そういう方は自ら応募なさっているのでいろいろな意見をお持ちの方が多いようです。公募委員の方も是非活発に意見を出していただければと思います。 それでは、本日は第1回目ということで、私から皆さんにお伝えしておきたいのは、懇談会を開催するにあたって「こんな物を準備しておいてほしい。」「こんな事を議論してほしい。」という事があれば、事前に事務局に伝えておいていただきたいということです。 条例を作るにあたっても、市が作ったというよりは、むしろ皆さんの意見を反映させ、皆さんで作るという雰囲気で懇談会を進めていきたいと考えています。 あるいは、条例を作るということだけではあまり意味がないので、それを踏まえて、市や関係者が具体的に何をやっていくかということを考えていく機会としたいと思います。 そういう場では、言いたいことを言ったほうが良いと思いますので、是非いろいろなご意見をご発言いただくようお願いいたします。 それでは次に、今後の日程について事務局から説明をお願いします。
(6) 今後の日程について
(事務局) 「交通安全・防犯対策等に関する懇談会 今後の日程について」に基づき説明。 懇談会の開催について、資料の中では4回と記載してありますが、議論していく中で回数を増やす必要があれば増やしていきたいと考えています。ここで示しているのはあくまでも案です。この通り進めなければいけないというものではありませんので、あらかじめご承知おきください。
(小出座長) それでは、以上で本日の議題は終了となりますが、全体を通して何かありますか。
(北浦委員) 条例を作るにあたって、条例の雛型があれば次回のときに提示していただきたい。また、東京都条例や、近隣の自治体で既に制定されているものがあれば、より良いものを作るためにも参考としたいので、用意していただきたいと思います。
(事務局) 事務局では、東京都の安全・安心まちづくり条例をはじめ、近隣の自治体あるいはその他の自治体を含め、相当な資料を持っています。次回以降、その中から抽出した資料を委員の皆さんにお示しできるよう準備させていただきます。
(加藤委員) 別な視点からの話になりますが、大地震等の災害が発生し、多くの怪我人が発生した場合のために、医師や看護士、あるいは退職した人等を含めて、事前に市と調整し、救助活動を行う体制を整えておいてはどうでしょうか。
(小出座長) 医師や看護士あるいはボランティアの登録制度のようなものと思います。自治体によっては、災害時の対応のための講習や訓練を受けてもらったり、あるいは個人で資格をもつ人を登録してもらう等の対策を行っています。ただし、個人情報保護との関係で、災害時にそうした情報が外部に出せないという状況もあるようです。次回以降検討してみたいと思います。
(北浦委員) この懇談会は交通安全、防犯対策を主としていますが、災害対策をどこまで考えれば良いか確認しておきたいのですが。
(小出座長) 安全という意味で、広く考えていっても良いと思いますが、皆さんでどのようにとらえていくか、今後議論の対象としてみてはいかがでしょうか。 それでは、これで本日の第1回目の懇談会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。
休憩
6 講話 テーマ 安全・安心まちづくりへの取組みについて
講師 小出治座長
(講師) 1980年代位から、防犯は世界的に大きな課題となっています。今回は、特にイギリスにおける防犯対策の話をさせていただきます。
1 犯罪原因論
従来の犯罪に対する考え方は、「犯人は誰か」、「その人が犯罪を犯した原因は何なのか」という点に重点をおいて、犯罪者の生まれもっての性格、次に社会環境や教育環境等、周辺環境の影響などを調査・検証しながら犯罪の原因を追求するという「犯罪原因論」によるものでした。したがって、こうした犯罪の原因となった事象を元に戻せば、犯罪もなくなるという考え方にもとづき、防犯対策のシステムを考えていくというものだったのです。ところが、こうしたシステムを社会に組み込んでいっても、実際には犯罪は減少しませんでした。
2 犯罪機会論
続いて、今度は被害者の立場から、人が犯罪の被害にあわないためにはどのようにしたら良いかという考えが出てきました。犯罪がどこで起こるのか、場所に着目する考え方です。これはAの所で起きたがBの所で起きなかったのはなぜかといったことを、ABについて比較検討して、その違いを見つけることで、犯罪の被害に遭わないようにしようとするもので、犯罪機会論というものです。
日本を含め、今の防犯対策はこの考え方にかなり影響を受けています。最近では、犯罪に対する考え方が、いわゆる犯罪原因論(従来の考え方)から犯罪機会論に移ってきているのです。犯罪機会論は「なぜその場所で犯罪が起きたのか。」「犯罪者にとって犯罪をやり易い場所かどうか。」「やり易くしている原因は何か。」を考えます。ここでいう場所とは、ロケーションという意味だけでなく、社会環境を含んだ広い意味での環境のことを示しています。
例えば、自分の家は泥棒に入られて、隣の家には入らなかったというと、その「家」に着目していきます。たまたま鍵が掛かっていなかった、あるいは窓が開いていたといった物理的な環境、あるいは、隣の家が空家であったとか、家の前が公園であった、少し大きな道路から離れていたといった家の位置、たまたま留守をしていた、自分の家が隣の家に比べて金持ちに見えたというような、物理的なことと社会的なことを含めて場所について着目して考えていこうということが犯罪機会論の特徴です。
3 「犯罪」と「嫌なこと」
ご意見の中にもあったように、皆さんが気にしていることには、必ずしも犯罪のことだけではなく、少年の非行の問題やマナー違反のことも含まれています。防犯活動を考えると、「犯罪」ということから、犯罪には至らなくとも自分たちの身近なところで起きる「嫌なこと」まで、幅広い対象で物事を見ようという考え方が必要です。 難しいのは「犯罪」と「犯罪ではないこと」、もう少し言うと「刑事」と「民事」の領域がはっきりしないということです。ここの「境の部分」をどのように捉えるかが、近年、変化してきています。
例えば、ストーカーの問題。昔は民事事件とされていたが、最近は警察も関与しなさいというふうになっています。また、つい最近問題となっているのは、子どもの虐待の問題。これについても警察はもう少し関与しなさいというふうになってきています。
こうした「境目の部分」について、犯罪ということで割り切ったとしても、実際にはこうした事件になかなか犯罪捜査として踏み込んでいくことは難しいものです。警察の側からいうと、刑事の幅を徐々に広げていくこととなります。逆に市民の側からいうと、刑事事件かどうかわからない民事的なこと、例えば、近くのお店で子どもがたむろしていることやホームレスが酔って公園で寝ているようなことをどうするか、要するに犯罪とは言えないが、社会的に問題があるようなことをどうするか、あるいは、近所で騒音を出している家とかゴミ屋敷等、地域としてどのように考えていくか、といったことが非常に重要な課題となってきます。つまり、犯罪というものを中心として考えていくが、それよりも生活者のレベルから考えると、自分たちの身近にある「嫌なこと」をどのように考えていくかということが大きな課題となるということです。
犯罪とならない秩序の違反、反社会的行動というものをどう見ていくか。これを連続的に見ようする考え方で特に有名なのは、アメリカのニューヨークで言われている「割れ窓理論」で、ビル(国や社会)にある個々の小さな窓が割られたときに、これを放置すると、やがてビル全体が崩壊してしまうという考え方です。すなわち、身近にある犯罪かどうかわからない小さな事を放置していくと、いつかは大きな犯罪を引き起こしてしまうというものです。犯罪とその周辺部分との関係について、特にそれを因果関係として捉えようとしているのがこの「Broken Windows Theory」です。
ニューヨークでは、防犯対策として何を行ったかというと、小さな事1つ1つは犯罪かどうか微妙だが、それを徹底して許さないという決断のもと、それらを1つ1つ潰していくことによって犯罪を防ごうとしたわけです。これが正しいかどうかは難しい所ですが、少なくとも刑事事件と民事事件を1列に繋いで、その境目で起こることをなるべく詰めていく。刑事事件と民事事件を別なものとして考えず、これらの境目で起こることも含めて全体を社会として押さえていくという考えです。
英国では防犯基本法のような法律ができていて、犯罪よりもむしろ「犯罪としてはなかなか押さえきれない部分をどう押さえるか」ということを考えています。その中で、先程述べた反社会的行動を規制する法律まで作っており、イギリスでは法律でこうした中間段階をかなり厳しく見ています。こうした中で、何が一番大きく変わったかというと、規制の対象が全体に広がったことによって、警察が対処する部分の外側にある広い部分については、警察以外の誰かが対処しなくてはいけない状況がうまれてきたのです。特にその中で、市民、民間企業、行政がやらざるを得ない領域というものが広がってきました。
ニューヨークにおいて、「割れ窓理論」に基づいて行ったことは何かというと、まず最初に警察が浮浪者対策を行いました。次に地下鉄の落書き消しを行いました。当時の地下鉄は、駅自体の電気が切れていたり、入ってくる電車も電気が切れていて、電車全体に落書きが書かれているという状況でした。ある日、こうした「落書きをされた電車は営業に使わない」という決断をして、徹底的に落書き消しを行いました。これは事業者が行ったことです。
そういう意味で、安全を守るために対処すべき対象が、犯罪からそうではない部分(その外側の部分)にまで広がったことにより、その部分に対しては、警察から徐々に一般市民、民間企業あるいは行政が自ら対処する必要が生じてきたのです。
そこで、いろいろな所でいろいろな人がやることになると、それを横に連携する必要が出てきました。「私は消防」、「私は警察」というのではなく、もう少し自分たちの身近な地域の生活から見て、はっきり「これは泥棒です」とか「放火です」と定義できる行為だけではなくて、自分たちにとって「嫌なこと」を含めて全体を対象に考えていかなければならない。「私はこういう専門」ということではなく、それを社会の中の地域の安全・安心という言葉の中で横に連携をして、お互いが安心できるような体制をとっていかないと、全体として対処できないという状況に陥ってきたわけです。
こうしたことから、全てを包括的に考えるという防犯の基本法のようなものを作り、それぞれの主体間で連携して取り組む体制づくりを行うこととしました。防犯協議会のようなものを作ることを法律で義務付けたのです。このメンバーは、警察、市役所、民間企業、NPO、ボランティア組織が入っています。法律で義務付けているということは、予算立てをして、計画を作って、実行しなさいということになります。警察が犯罪を抑え、これを補助していろいろな組織がサポートするという体制から、自分の考える「嫌なこと」を潰すという行為を横で連携しながら実施していくという体制に移っていきました。そういう意味で、防犯の対象が幅広くなり、必ずしも法律で罰することができない問題にも対処しなくてはならないという状況になったのです。
もう一つは、「不安感」という問題があります。防犯のマップ作りを見ていくと、いろんな視点があることがわかります。子どもの目、大人の目、昼間、夜間と全部異なります。しかし、少なくとも自分たちが不安を感じるということを契機として、行動を起こすのが防犯です。自分たちの感じる不安感を防犯にどう活かすか。
例えば公園が薄暗くて不安だと言うと、警察では過去10年犯罪が1件も起きていないと言います。すなわち不安感という主観的、感覚的な問題と、犯罪発生の実態とを比べると、必ずしも因果関係がはっきりと現場の中で見られない状況にあります。 では、実態がないからといって、自分たちが持った不安感は役に立たないのかというとそうではなく、むしろ実態とは離して、自分たちにとっての不安、嫌な、あるいは良いと思うことを優先して考えようというようにだんだんなってきます。自分が思うことを「自分はこう思う」というだけではなく、「みんながそう思う」ということに地域全体が了解していくことが必要になってくるということです。
例えば、タバコのポイ捨て禁止や千代田区の喫煙防止条例といったものがあります。隣の区では認められることが、この区では認められない。そういう地域によって差が出る可能性もあるわけです。犯罪のように、国の中で一律に規制することではなく、自分たちが嫌だと思うから、自分たちの地域ではその行為を禁止しようということになってきます。それが絶対的に正しいとか正しくないという問題とは別に、それぞれの価値観をベースにした考え方になってくるわけです。地域のことといっても、ある程度法律的な権力付けをして、実効性をもたせなければならないので、一番末端の自治体として、市が条例化をすることが必要なります。
いろいろな統一的な活動の中で、町内会単位で自分たちのルールを作る、それに対してある一定の力を与えることができるという制度は、今いろいろな所でできつつあります。そういうものと防犯は密接に関わりがあり、市の全域で防犯の何かを決めるということではなくても、自分たちの町会の中ではこういう行為をしてはいけないということを決めていく可能性が残されているのです。
私は都市計画をやっているので、建築に関心がありますが、例えば「自分の住んでいる地域に高い建物はいりません。」ということをルール化していくことができます。それから「赤い建物はいりません。」ということもできます。赤い建物が良いか悪いかではなく、自分の地域にとってどのように悪いかということになります。そういうルール作りをやっていこうというのが、防犯活動の大きな側面になってきています。
4 ハードウェアのことについて。
普通防犯活動というと、パトロールというようなことをやっていますが、犯罪の発生する場所、環境に着目して判断しようとすると、そこの環境が悪いからどうするかという話が必ず出てくるようになります。犯罪にあった家は、あわなかった家と比べて何らかの悪い点があるとすれば、それを改善するにはどうしたら良いかという方法を考える必要があります。それで、この物的環境の整備の方法を考えましょうという流れが出てきました。
平成12年、警察庁では「安全・安心まちづくり」という先進的な取組みが始まりました。世界的な防犯の流れの中で、日本が取り入れた特徴的な政策は、ハードウェアの整備ということがあげられます。不安感の反対が安心感であり、「安全」は、はっきりと定義された領域ですが、それに対して「安心」は、はっきりとしない領域で、こうした主観的な問題に対しても重要な課題ととらえ、言葉の中に「安心」を組み入れています。「まちづくり」の部分に関しては、もう少し幅の広い、犯罪というのではなく地域の人たちの目から見た時の、自分たちにとって嫌なことを無くして、良いことを増やしていくという環境を整備していくという趣旨で、安全・安心・「防犯」ではなく「まちづくり」という立場の意味を含んでいます。
また、犯罪が起きた場所に着目するという観点から、東京あるいは全国的にも、犯罪発生場所の地図を作っています。例えば、東京について、犯罪の密度等を見ていくと、地域的な特徴、場所と犯罪発生には関係があるということがわかります。犯罪の発生場所について見ると、だいたい鉄道の駅を中心にして広がっています。駅の周辺に商店街があり、その後ろに広がる住宅地に泥棒が入っています。しかも、その駅が、大きな駅、あるいは利便性の高い駅の場合に、より多くの泥棒が入るという傾向にあります。泥棒は電車に乗ってやって来て物色をしていくのではないかというような様子が伺えます。人通りの少ない道路に面した家や、裏が公園、学校、駐車場であるといった場所による特性も見られます。
泥棒は、駅で降りる時に、その時点である程度、泥棒ができる地域かどうかといった選定を行っていると考えられます。したがって、そこで泥棒をさせないためには、駅で降ろさせないことが重要な課題となってきます。そういう意味で、地域全体で泥棒を寄せ付けないということを実現させなければならないと思います。また、1軒だけで犯罪が起きているわけではなく、付近の家にも泥棒が入っているケースが多いので、自分の家だけが気をつけるのでは、犯罪から逃れるのは難しいと考えられます。隣の家との関係、道路との関係、隣の敷地との関係、そういうものを総合的に考え、対策を講じていかなければならないと思います。
犯罪の発生した場所に着目して対策を講じる場合、その場所の弱点をいかに取り除くか、逆にいえば、良い点をいかに伸ばすかということが重要です。犯罪ということだけではなく、自分たちの身近な地域での「嫌なこと」を排除していくルール作りを、自分たちの合意の中で決めていこうとする流れが起きています。タバコの喫煙防止やあるいは自分の地域にはパチンコはいらない、風俗店はいらないといった地域でのルールを作り、それにある程度の力を与えていく仕組みを考えていくことが必要です。そういう意味で自分たちの地域の中から、犯罪のみならず、犯罪ではなくても「嫌なこと」も含んで、地域の生活から全体を見て、地域の安全をどう高めていくかということが非常に重要です。地域間での格差もあり、地域のブランド、自分たちの地域というのは何か違うという部分、また、その違いをどう見せるかということについて考えていかなくてはなりません。世界では、そういった観点で動いていて、日本にもその影響が波及してきました。ちょうど平成7年から8年頃は犯罪が増加し、平成12年頃から防犯に関するさまざまな施策がとられるようになってきました。こうした観点から最初に条例を施行したのが大阪府で、ただ今申し上げたような特徴をもっています。
また、国が外国からの思想を入れて日本的にアレンジして取り入れようとしたときに、市民の防犯に関する活動も非常に活発になりました。外国、警察庁、地方へという防犯対策の流れの外で、自分たちの身近なところでの犯罪抑止、「嫌なこと」の排除という市民からのボトムアップという逆の考え方が起こりました。それはいわゆる防犯パトロールとか、市民活動のサポートといった、非常に身近な地域におけるニーズに応えるというもので、地方自治体、市町村のレベルで作る条例というのは極めて具体的な市民活動サポートというタイプの条例が出てきました。この結果、国から県までは外国志向の世界水準的な条例ができ、一方で、市町村レベルでは、ニーズに応えるためのボトムアップ式の条例が出来ました。特に、市町村レベルでの条例は、極めて細かい部分をサポートする条例となっており、いわゆる市町村にける生活安全条例は、そこの部分が都道府県レベルの条例と少し矛盾をしています。
東京都の場合は例外で、東京都条例ができてその後区の条例ができていることから、半分ぐらいの割合で整合性がとれていますが、神奈川県と横浜市の条例を比較すると、市町村と県レベルでは内容が違っているというのが現状です。これは、新しい考え方を日本にどう取り入れていくかという中で起きている、ちょうど中間的な状況となっています。
外国の思想を守るという必要はありませんが、少なくとも犯罪というものを社会、あるいは身近な生活という面からどのように見ていったら良いかということについて世界的に悩んでいて、それを改善しようとする動きが、一言で言うと「安全・安心まちづくり」という言葉の中に凝集されているものと考えます。
6 次回の日程について
(事務局) 次回の懇談会開催日程については、後日調整のうえ、あらためてお知らせします。
7 閉会
(事務局) 閉会宣言 |
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